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高度生殖補助医療とは
精子や卵子(配偶子)や受精卵(胚)を体外で取り扱う治療のことを高度生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)といいます。
1978年にイギリスで世界初の体外受精-胚移植による赤ちゃんの誕生が報告されました。日本では、1983年に体外受精による初の赤ちゃんの誕生の報告がされ、2018年には年間56,979人の赤ちゃんが誕生しております。これは年間の出生児全体の約16人に1人がARTの治療により誕生したことになります。また、2018年までに累計650,333人がARTにより誕生しています(日本産科婦人科学会報告より)。
生殖補助医療の実施件数について
2018年のARTの治療実施件数と妊娠数(妊娠率)、出生児数は下記の表の通りです。
高度生殖補助医療のリスク
妊娠成績と流産のリスクについて
生殖補助医療においては、女性の年齢が高くなると妊娠率、生産率が低下する一方、妊娠あたりの流産率が上昇する傾向があります(下図)。
(出典 日本産科婦人科学会 2018年ARTデータブック)
多胎妊娠のリスクについて
子宮に戻す胚の数を増やすと多胎妊娠率のリスクが増加します。多胎妊娠では単胎妊娠に比べ、妊娠高血圧症候群等の妊娠合併症や早産、低出生体重児の出産、帝王切開分娩のリスクが高くなります。長期の入院管理が必要となることもあります。
異所性妊娠(子宮外妊娠)について
異所性妊娠とは、胚が子宮内膜以外の部位に着床してしまうことで、胚移植によって子宮内に戻された胚が移植された胚が卵管等に移動することで起こります。異所性妊娠の頻度は、全妊娠例の約1%とされ、卵管に着床することが最も多いと報告されています。自然妊娠では、卵管を通過する過程で成長した胚が子宮に移動せずに、卵管に着床してしまうことで異所性妊娠が起こります。
生殖補助医療においても異所性妊娠を100%予防することはできませんが、発生頻度は自然妊娠と同程度と考えられています。
出生児の先天異常について
日本産科婦人科学会の報告では2018年に高度生殖補助医療(胚移植)によって出生した児は、59,979人であり先天異常が認められた児は1331人(1.7%)とされています。自然妊娠での先天異常の発生頻度は1~2%と報告されていることから、高度生殖補助医療での出生児の先天異常の頻度は自然妊娠の先天異常の頻度と同程度と考えられます。
しかし、先天異常の発生や児の長期的な予後、次世代への影響については、今後も注意深く観察していく必要があります。
高度生殖補助医療の流れ
①治療を始める準備
ART説明会の参加(参加が困難な場合は動画視聴でも可)
他院でARTを受けたことのある方も当院での治療について理解していただくため、動画視聴をお願いしております。
②治療を始める前に必要な検査
- 感染症検査(夫婦):B型肝炎、C型肝炎、梅毒、HIV
- 血液検査:血算、生化学、凝固因子
- ホルモン検査:E2、LH、FSH、PRL、P4、TSH、T4、AMH
- 子宮鏡検査
- 子宮卵管造影検査または卵管通水検査
*全身麻酔を行う際には事前に心電図検査があります
③治療を始める前に必要な提出書類
- 戸籍謄本(婚姻関係の方)または住民票(事実婚の方)
- 同意書3通
(体外受精-胚移植同意書、顕微授精-胚移植同意書、胚凍結保存に関する同意書)
④治療開始(必要に応じて卵巣刺激を行います)
複数の卵巣刺激方法の中から、治療周期のホルモン状態等を考慮して卵巣刺激方法を決定します。
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⑤採卵
卵巣内に発育した卵子を体外に取り出す処置です。
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⑥受精操作(体外受精、顕微授精)
受精方法は標準体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)の2種類あります。
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⑦新鮮胚移植
体外で成長した胚を子宮内に戻すことを胚移植と言います。
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⑧胚凍結
複数の胚が成長した場合、胚を凍結保存することができます。
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⑨融解胚移植
凍結保存を行った胚を融解し子宮に戻すことを言います。
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⑩黄体期管理
着床環境を維持するために黄体ホルモンの補充として膣錠の挿入または内服をしていただきます。
⑪妊娠判定
血液検査でhCGの値を測定して妊娠の有無を判定します。
卵巣刺激
1)卵巣刺激とは
卵巣刺激は、複数の卵子を獲得する目的で行います。卵巣刺激は、「高刺激周期」と「低刺激周期」、「自然周期」に分類することができます。
患者様の年齢や卵巣の状態等を考慮して卵巣刺激方法を決定します。
2)当院で行っている卵巣刺激の方法
①Long法(ロング法)
治療の前周期の月経2~3日目よりプラノバール(他の薬に変更可能)を10日間内服、内服終了より点鼻(ブセレキュア)を1日3回、8時間毎に開始します。プラノバール内服終了後4~5日で月経開始となり、月経開始後3~5日目から排卵誘発剤の注射が始まります。概ね2~3日に1度、卵胞の発育を経膣エコーで確認をしていただくため来院していただきます。採卵日の前々日(2日前)の昼で点鼻薬は終了し、同日夜にhCGの注射があります。
②Short法(ショート法)
前周期の月経2~3日目よりプラノバールを10日間内服、月経開始2日目より点鼻薬(ブセレキュア)を1日3回、8時間毎に開始します。月経開始3日目から排卵誘発剤の注射が始まります。概ね2~3日に1度、卵胞の発育を経膣エコーで確認をしていただくため来院していただきます。採卵日の前々日(2日前)の昼で点鼻薬は終了し、同日夜にhCGの注射があります。
③antagonist法(アンタゴニスト法)
前周期の月経2~3日目からプラノバールを10日間内服、月経開始3日目から排卵誘発剤の注射が始まります。点鼻薬は使用しません。概ね2~3日に1度、卵胞の発育を経膣エコーで確認をしていただくため来院していただきます。卵胞径がある程度大きくなった時点でantagonistを1日ないし2日投与し、採卵日の前々日(2日前)の夜に点鼻薬またはhCGの注射があります。
④クロミフェン(CC)+hMG法/レトロゾール+hMG法
前周期の月経2~3日目よりプラノバールを10日間内服、月経周期3日目からCCまたはレトロゾールの内服を開始します。月経周期7日目(内服終了後)に経膣超音波で卵胞発育を確認し、適宜注射剤を追加します。卵胞径がある程度大きくなった時点でantagonistを1日ないし2日投与します。採卵日の前々日(2日前)の夜に点鼻薬またはhCGの注射があります。
⑤黄体ホルモン併用法(Progestion-primed Ovarian Stimulation:PPOS)
月経開始2~3日目より経口黄体ホルモン製剤と排卵誘発剤の注射を開始します。経口黄体ホルモン製剤は朝夕食後に内服します。注射投与3~5日後に来院していただき、経膣超音波で卵胞の発育を確認します。採卵の前々日(2日前)の夜に点鼻薬またはhCGの注射があります。内服の服用は採卵の前々日の夜までおこないます。
⑥自然周期法
卵巣刺激の注射や内服をせずに自然に起こる排卵に合わせて採卵を行います。採卵日の前々日(2日前)の夜に点鼻薬またはhCGの注射があります。排卵のタイミングを確認するために複数回来院していただくことがあります。
採卵までに排卵を起こしてしまい採卵が中止になる可能性があります。
3)卵巣刺激のリスク
卵巣刺激を行うことにより卵巣過剰刺激症候群(Ovarian hyper stimulation syndrome:OHSS)が発症する可能性があります。
これは、卵巣が大きく腫大し、血管内の水分が外に漏れだしてしまう状態です。
重症化した場合には、入院や状況によっては手術が必要となる場合があります。
卵巣過剰刺激症候群について
1)卵巣過剰刺激症候群とは
卵巣刺激や排卵誘発の副作用で卵巣が大きく腫大し、血管内の水分が外に漏れだし腹水や胸水が貯留するほか、重症化すると量尿の減少や血栓ができやすくなる状態のことを言います。
2)卵巣過剰刺激症候群の発生頻度
卵巣刺激周期当たりのOHSSの発生頻度は重症型が0.8~1.5%、最重症 型が10万あたり0.6~1.2となっています(2002年日本産科婦人科学会報告)。
3)卵巣過剰刺激症候群の主な症状
- 腹部膨満感
- 腹痛
- 血栓(血管の水分量が少なくなり、血液が濃縮され血栓ができやすくなる)
- 稀に腫大した卵巣が捻転を起こし、腹部に激痛を引き起こすこともあります
4)卵巣過剰刺激症候群になるリスクがある人
- 多嚢胞卵巣症候群(PCOS)と診断された人
- 35歳未満の人
- 卵巣過剰刺激症候群の既往がある人
5)卵巣過剰刺激症候群の治療方法
- 超音波所見やホルモン値の状況によって卵巣刺激に使用する薬剤の投与量を減らしたり、卵巣刺激を中止したりする
- 新鮮胚移植を行わずに全胚凍結を行う
採卵
1)採卵とは
細長い針を用いて卵胞を穿刺し、卵子を回収することを言います。
2)採卵の方法
経腟超音波を用いて卵胞の位置を確認し、細長い針を用いて卵胞を穿刺し、卵胞液を回収します。採卵は局所麻酔または静脈麻酔下に行います。
卵胞の数にもよりますが、概ね10分程度で終了します。
3)採卵当日の流れ
①入室
・お名前を確認させていただき、診察券をお預かりします
②麻酔導入
・局所麻酔または静脈麻酔を行います
③採卵開始
・卵胞を穿刺して卵胞液を回収します
④検卵
・培養士が顕微鏡下で回収した卵胞液から卵子を探し回収します
⑤診察
・安静室でお休みいただいた後に医師が診察を行い、受精方法等を決定します
⑥お会計
・お会計をしていただきます
4)採卵のリスク
採卵は経腟超音波ガイドかに卵巣を針で刺し、卵胞液を吸引し卵子を拐取する処置です。採卵に伴う合併症として、卵巣周囲臓器(子宮、膀胱、腸管)の損傷、出血、麻酔による副作用があります。
5)費用
費用はこちらをご確認ください
1)卵巣周囲臓器の損傷について
卵胞を穿刺する際に周囲の臓器を穿刺してしまうことです。卵巣の位置が不良な場合や子宮内膜症等で骨盤内に癒着がある場合は、損傷のリスクが少し高くなります。膀胱穿刺が起こった場合、膀胱内に出血が起こるため血尿となりますが、バルーン留置等の処置を行うことでほとんどの場合止血します。腸管損傷は非常に稀ですが状況により腹腔内に感染を起こし外科的手術が必要に可能性があります。
2)出血について
子宮周囲の血管損傷、穿刺部位からの出血が起こります。
3)麻酔による副作用について
アレルギー発作等。麻酔使用時は副作用に注意してモニターし、適切に対処できる体制を整えておりますが、患者様からも過去の薬剤等でアレルギー反応があった場合は必ず主治医または看護師にお伝えください。
精子調整
1)精子調整とは
射出精液中には運動精子以外に不動精子や白血球等の細胞が含まれています。
これらの細胞を取り除き運動良好精子を回収することを言います。
精液中に含まれる運動精子以外の細胞には、不動精子、白血球、赤血球、扁平上皮細胞、B型肝炎、HIV等のウイルス等が含まれています。
白血球等は精子の質を低下させる原因となります。
そのため、採取後は速やかに精液中から運動精子以外の細胞を取り除く必要があります。
2)精子調整の方法
当院では使用目的と精子の状態に合わせて精子調整を行っております。
- ①一般不妊治療(人工授精):密度勾配法または洗浄濃縮法
- ②高度生殖補助医療(IVFまたはICSI):スイムアップ(Swim up)法または洗浄濃縮法
3)精子調整のメリットとデメリット
メリット
- ①運動良好精子を回収できる(密度勾配法、スイムアップ法)
- ②白血球等の細胞を取り除くことができる(密度勾配法、スイムアップ法)
デメリット
- ①精子の状態によっては想定よりも少ない数の運動精子しか回収できないことがある
- ②男性が感染症を有している場合、ウイルスの種類によっては精子調整を行っても取り除くことができず、治療によって女性に伝播する可能性が報告されている
1)密度勾配法とは
シラン被膜コロイドシリカゲルを用いて処理することで比重が高い成熟精子を回収する方法です(成熟精子の比重が未熟精子やウイルス等よりも高いとされています)
2)密度勾配法の手順
3)密度勾配法のメリットとデメリット
メリット
- ①精液中に含まれる不動精子やウイルスを取り除くことができる
- ②成熟した運動精子を多く回収できる
デメリット
- ①運動精子数が十分ないと実施できない(回収精子が減ってしまうため)
- ②調整後に不動精子が多く含まれることがある
(精子の比重のみで分類するため、不動精子でも比重が高いものがあると回収されてしまうため)
1)スイムアップ法とは
密度勾配法または洗浄濃縮法で回収した運動精子の中から運動性の高い精子を回収する方法です
2)スイムアップ法の手順
3)スイムアップ法のメリットとデメリット
メリット
- ①運動良好精子を回収できる
デメリット
- ①十分な運動精子が回収できないことがある
*調整前の原精液の状態が良くても標準体外受精(IVF)が実施できない場合もある
1)洗浄濃縮法とは
精液中の細胞をすべて回収する方法です
2)洗浄濃縮法の手順
3)洗浄濃縮法のメリットとデメリット
メリット
- ①精子をほぼすべて回収できる
デメリット
- ①不動精子や白血球等の細胞を取り除くことができない
受精方法
1)受精方法について
受精方法には標準体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)の2つがあります。
当院では採卵によって複数の卵子が獲得できた場合に、標準体外受精と顕微授精を数個ずつ行うスプリット法(IVF+ICSI)も実施しております。
2)受精方法の選択について
受精方法の選択については、不妊原因や採卵日の精子の状態、過去の治療歴等を考慮して決定いたしますが、原則、日本産科婦人科学会の会告に基づいて行っております。
標準体外受精(IVF)
1)標準体外受精とは
採卵後の卵子と一定濃度の運動精子を一緒に培養して受精させる方法です。体内で起こる受精に近い状態で受精できるため、より自然に近い受精方法になります。
2)標準体外受精の適応
3)標準体外受精の成績
- ①一般に標準体外受精(IVF)での正常受精率は約70%と報告されています
- ②胚移植後の妊娠率は移植周期当たり23%と報告されています
(2018年 日本産科婦人科学会の報告)
4)標準体外受精のメリットとデメリット
メリット
- ①より自然に近い状態で受精させることができる
- ②顕微授精に比べ卵子への負担が少ない
デメリット
- ①受精卵が1つも得られない可能性がある(受精障害)
- ②複数の精子が同時に卵子に侵入してしまう可能性がある(多精子受精)
- ③受精卵が1つも得られないことや受精率が極めて低い場合がある
5)標準体外受精による児への影響
- ①標準体外受精(IVF)により出生した児の先天異常率は自然妊娠で出生した児と差はないと報告されています。しかしながら、長期的な経過観察が必要とされています。
6)標準体外受精の方法
採卵後の卵子と一定濃度の運動精子を一緒に培養して受精させます。
顕微授精(ICSI)
1)顕微授精とは
顕微授精とは、卵細胞質内精子注入(Intracytoplasmic sperm injection:ICSI)と呼ばれ、顕微鏡下で受精準備の整った卵子(成熟卵子)に1つの精子を極めて細いガラス針を用いて直接卵子の中に注入する方法です。主に精子数が少ない、運動している精子が少ない等の男性不妊の治療方法として開発されました。
顕微授精の実施に際しては、日本産婦人科学会より「男性不妊や受精障害など、本邦以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される夫婦を対象とする」とあります。
2)顕微授精の適応
- ①重度の乏精子症、精子無力症、精子奇形症 およびその合併症の場合
- ②無精子症の場合
- ③体外受精(IVF)で受精障害であった場合
- ④抗精子抗体強陽性の場合
3)顕微授精の成績
- ①一般的に顕微授精での正常受精率は約80%と報告されています
- ②胚移植後の妊娠率は移植周期当たり19%と報告されています
(2018年 日本産科婦人科学会の報告)
4)顕微授精のメリットとデメリット
メリット
- ①精子を直接卵子に注入することができる
- ②精液所見が厳しい症例でも精子が1つあれば受精操作を完了できる
- ③受精率が標準体外受精に比べると高い傾向がある
デメリット
- ①成熟卵にしか実施できないため、顕微授精を実施できない場合がある
- ②受精卵が1つも得られないことや受精率が極めて低い場合がある
- ③針を刺すという物理的な刺激により卵子が変性してしまう場合がある
5)顕微授精による児への影響
- ①男児が誕生した場合の男性不妊因子の伝播
・無精子症および重度乏精子症の場合、男性が持つY染色体上の造精機能に関する遺伝子に異常がある場合があります。この遺伝子に異常をもつ精子を用いた顕微授精によって出生児が男児であった場合、その異常が継承され父親と同様に男性不妊症になることがあります。
- ②出生児の先天異常の発生頻度
・顕微授精により出生した児の先天異常率は1.7~4.0%と報告されており、体外受精(IVF)により出生した児の先天異常率と差はないと報告されています。しかしながら、長期的な経過観察が必要とされています。
6)顕微授精の方法
極めて細いガラス針に1つの精子を吸引し、卵子の中に直接注入します。
スプリット(split)法
1)スプリット法とは
採卵によって複数の卵子が獲得できた場合に、獲得できた卵子を標準体外受精と顕微授精に数個ずつ分けて媒精を行う方法です。
例えば、採卵によって卵子が10個獲得できた場合に、標準体外受精を6個、顕微授精を4個行います
2)スプリット法の適応
- ①採卵によって複数の卵子が獲得できた場合
- ②採卵当日の精子に異常がない場合、または軽度の男性不妊症の場合
- ③過去に標準体外受精を行い、正常受精卵が得られなかった、または正常受精率が極めて低かった場合
3)スプリット法の成績
- ①一般に正常受精率は、標準体外受精の場合は約70%、顕微授精の場合は約80%と報告されています
- ②胚移植後の妊娠成績は、標準体外受精で受精した胚を移植した場合は23%、顕微授精で受精した胚を移植した場合は19%と報告されています
(2018年 日本産科婦人科学会の報告)
4)スプリット法のメリットとデメリット
メリット
- ①標準体外受精での受精障害や多精子受精の可能性を軽減できる
- ②顕微授精による物理的刺激による卵子の変性を回避できる
デメリット
- ①標準体外受精を実施した卵子では、受精障害や多精子受精の可能性がある
- ②顕微授精を実施した卵子では、物理的な刺激による卵子変性の可能性ある
- ③卵子が成熟していないために顕微授精を実施できない可能性がある
- ④どちらの方法でも正常受精卵が得られない可能性がある
5)split法による児への影響
- ①標準体外受精で受精した胚を移植した場合は、出生した児の先天異常率は自然妊娠で出生した児と差はないと報告されています
- ②顕微授精で受精した胚を移植した場合、
・男児が誕生した場合の男性不妊因子の伝播の可能性がある点
・無精子症および重度乏精子症の場合、男性が持つY染色体上の造精機能に関する遺伝子に異常がある場合があります。この遺伝子に異常をもつ精子を用いた顕微授精によって出生児が男児であった場合、その異常が継承され父親と同様に男性不妊症になることがあります。
・出生児の先天異常の発生頻度について
・顕微授精により出生した児の先天異常率は1.7~4.0%と報告されており、体外受精(IVF)により出生した児の先天異常率と差はないと報告されています。
- ③いずれの場合においても長期的な経過観察が必要とされている点
6)スプリット法の方法
男性不妊
1)造精機能不全
精子を作り出す機能自体の問題で精子数が少なくなっている状態です。造精機能障害には乏精子症や非閉塞性無精子症等があります。また、原因には先天性の場合と後天性の場合がありますが原因はわからない場合が多く、突発性の場合がほとんどです。
①造精機能不全の原因について②主な治療方法
- 精索静脈瘤手術
- 精巣内精子回収法
2)性機能障害
精液所見に異常がないが、精子が配偶者の生殖器官に到達できない場合をいいます。
①主な病態- 性欲低下
- 性嫌悪症
- 勃起障害(ED)
- 射精障害
- 内服薬の服用
- 食事療法や運動療法
3)副性器機能異常
精巣上体、前立腺、精嚢等の臓器が機能不全を起こしてしまっている状態です。濃精液症患者に疑われます。
①主な治療方法- 各々の病態に合わせた薬物療法
造精機能不全の原因について
1)精索静脈瘤とは
精巣から心臓につながる静脈内の血流が逆流してしまい、精巣の周りの静脈にコブができてしまう状態のことです。精巣内の温度が上昇してしまい精子形成不全を引き起こします。自覚症状があまりないため発見が遅れる場合があります。男性不妊患者の30%が精索静脈瘤と言われています。
2)症状
- 陰嚢や鼠径部の痛みや不快感
- 長時間の立位や腹圧がかかったときに症状が強くなる
- 陰嚢に塊のようなものを感じる
3)治療方法
- 外科的な手術を行い、血液の逆流を防ぎます
- 射出精液中に精子が確認できた場合は一般治療または高度生殖補助医療を行います
4)術後について
術後、精液所見の改善が確認できた場合は自然妊娠または一般不妊治療によって挙児を得ることも可能となりますが、手術を行っても精液所見が改善されない場合は高度生殖補助医療の適応となります。
1)停留精巣とは
精巣が陰嚢内に下降しきっていない状態です。精巣内の温度が上昇してしまい、精子形成不全を引き起こします。症例によっては無精子症 になりこともあります。
2)治療方法
- 外科的な手術またはホルモン療法がありますが、日本では外科的な手術が一般的です。
- 治療により射出精液中に精子が確認できれば一般不妊治療によって挙児を得ることも可能となりますが、手術を行っても精液所見が改善されない場合は高度生殖補助医療の適応となります。
1)無精子症とは
射出精液中に精子が確認できない状態をいいます。精巣内で精子は作られているが射出するまでの精路に異常がある無精子症を閉塞性無精子症、精巣内で精子が作られていない、または極めて少ない場合を非閉塞性無精子症と呼びます。
2)治療方法
①閉塞性無精子症- 閉塞部位を再吻合する精路再建手術 術後、射出精液中に精子が確認できれば一般不妊治療によって挙児を得ることも可能となりますが、手術を行っても精液所見が改善されない場合は高度生殖補助医療の適応となります。
- 精巣内精子回収法 精子が獲得できた場合は顕微授精の適応となります
- 精巣内精子回収法
- 精子が獲得できた場合は顕微授精の適応となります
閉塞性無精子症について
1)閉塞性無精子症とは
精巣内で精子は形成されていますが、射出されるまでの経路(精路)が閉塞あるいは狭窄しているために射出精液中に精子が確認できない状態を言います。
2)主な原因
①精巣上体炎後の閉塞
②鼠径ヘルニア手術の後遺症
③先天性精管欠損
④パイプカット
3)治療方法
①閉塞部位を再吻合する精路再建手術
・精路再建手術により射出精液中に精子が確認できれば一般不妊治療によって挙児を得ることも可能となりますが、手術を行っても精液所見が改善されない場合は高度生殖補助医療の適応となります。
②精巣内精子回収法
・精巣内精子回収法により精子が獲得できた場合は顕微授精の適応となります。
非閉塞性無精子症について
1)非閉塞性無精子症とは
射出されるまでの経路(精路)に異常がないにもかかわらず、射出精液中に精子が確認できない状態を言います
2)非閉塞性無精子症の主な原因
3)治療方法
- 精巣内精子回収法
- 精子が獲得できた場合は顕微授精の適応となります *手術を行っても精子を確認できない場合もあります
男性はXとYの染色体を1本ずつ持っていますが、X染色体を過剰に持っている状態です。この症候群の男性は、精巣が発達せず男性ホルモンの分泌も少ないため、多くの場合は無精子症となります。
男性が持つY染色体には造精機能に関与する部分(AZF領域)が存在しますが、この部分が一部または全部が欠損しているために精子が作られず無精子症となります。
胚移植
1)胚移植とは
体外で成長させた胚を柔らかいカテーテルを用いて子宮に戻す処置のことです。
採卵した周期に移植することを新鮮胚移植、採卵とは異なる周期に一度凍結した胚を融解し移植することを融解胚移植と言います。
2)胚移植の流れ
・胚移植は5分程度で終了します
・胚移植時に麻酔は使用いたしません
3)胚移植後の生活について
- ①生活に大きな制限はありませんが、激しい運動等は控えてください
- ②移植当日は、シャワーのみにして湯舟につからないでください
- ③腹痛等の体調の変化があった場合は当院にご連絡ください
4)胚移植のリスク
- ①子宮の状態によってはゾンデ(金属)や鉗子を用いて子宮の入り口を軽く引っ張ることがあります。使用時に痛みを感じることがあります
- ②少量の出血を伴うことがありますが、子宮内からの出血ではないので妊娠には影響ありません
- ③ごく稀に胚移植時に使用する培養液の影響でアレルギー反応を起こすことがあります
胚移植について
自然周期について
1)自然周期とは
ご自身の自然の排卵周期に合わせて移植を行う方法です。
2)自然周期の対象となる方
- ①自然の排卵周期がある方
- ②子宮内膜が十分に厚くなる方
3)自然周期での胚移植の流れ
1) | 移植を開始する周期の月経開始2~4日目に来院 |
2) | 卵胞の発育と子宮内膜厚を確認するために数回来院 |
3) | 来院して排卵を確認する |
4) | 初期胚移植:排卵後3日目に初期胚を移植する 胚盤胞移植:排卵後5日目に胚盤胞を移植する |
5) | 黄体補充を行う(妊娠判定が陽性の場合は継続) |
6) | 排卵から約2週間後に妊娠判定を行う |
4)メリット・デメリットについて
メリット
- ①自然周期に近い方法なので、より生理的
- ②ホルモン補充の回数、量が少ないため肉体的負担が小さい
デメリット
- ①排卵日を推測するために通院回数が多くなる
- ②胚移植日を調節できないため仕事等の調整が困難
- ③ホルモンの値が悪い場合、胚移植が中止となる可能性がある
- ④排卵日を固定できなかった場合、胚移植が中止となる可能性がある
ホルモン補充周期について
1)ホルモン補充周期とは
自然排卵を抑え、卵胞ホルモンと黄体ホルモンを補充することで子宮内膜を厚くする方法です。
2)ホルモン補充周期の対象となる方
- ①自然な排卵が困難な方
- ②ホルモン分泌に異常がある方
- ③自然排卵周期で妊娠が成立しなかった方
3)ホルモン補充周期での胚移植の流れ
1) | 移植を開始する周期の月経開始2~4日目に来院 ※ホルモン検査、超音波検査を行い治療ができるか確認します |
2) | エストロゲンの内服・貼付(妊娠判定が陽性の場合は継続) |
3) | 卵胞の発育と子宮内膜厚を確認するために数回来院(1~2回) |
4) | プロゲステロン(P)を投与開始し胚移植日を決定します |
5) | 初期胚移植:P投与後3日目に初期胚を移植する 胚盤胞移植:P投与後5日目に胚盤胞を移植する |
6) | プロゲステロン投与から約2週間後に妊娠判定を行う |
4)メリットとデメリット
メリット
- ①移植日を調節できるため仕事等の調節が容易
- ②通院の回数が少ない
デメリット
- ①ホルモン補充の回数、量が多いため肉体的負担を伴う
- ②ホルモン補充周期が合わない方もいる
孵化促進法(アシステッドハッチング)
1)孵化促進法とは
胚は着床前に胚の周囲にある透明帯から脱出(孵化)する必要があります。この脱出が不完全な場合は着床が成立しない可能性があります。この脱出を人為的に促進する方法のことを言います。
2)孵化促進法のメリットとデメリット
メリット
- ・透明帯の一部を切開することにより、胚の透明帯からの脱出を容易にすることができる
- ・透明帯からの脱出が容易になることで着床率の向上が期待できる
デメリット
- ・透明帯の一部を切開または菲薄化する操作の際に、ごく稀に胚が障害を受けてしまい胚移植が中止になる可能性がある
- ・一卵性双胎の頻度が増加するという報告もあることからがある
3)孵化促進法による児への影響
孵化促進法を実施していない場合と差はないと考えられますが、長期的な経過観察が必要とされています。
4)孵化促進法の方法
5)費用
価格表をご確認ください
胚凍結
1)胚凍結とは
胚移植に使用しない胚を液体窒素中で保管することを言います。
2)胚凍結の対象
- ①卵巣過剰刺激症候群を発症した、あるいはそのリスクがある方
- ②新鮮胚移植後に移植可能胚が残っている方
- ③子宮内膜の薄い方
- ④医師が個別に必要と判断された方
3)胚凍結の成績
凍結した胚を融解した時の生存率は95%以上あり、多くの場合その後の治療(胚移植)に使用が可能です。
4)胚凍結のメリットとでメリット
メリット
- ①新鮮胚移植に比べて妊娠率が高い傾向がある
- ②複数の胚がある場合は将来の胚移植に使用することができる
- ③新鮮胚移植を回避することで卵巣刺激による副作用の重症化を防ぐことができる
デメリット
- ①凍結融解の過程で胚がダメージを受けてしまい胚移植が行えない可能性がある(全体の1~5%)
- ②保管期間中に大災害等が起こった場合、融解ができなくなる可能性がある
5)胚凍結の方法
胚凍結は超急速カラス化法(Vtrification法)と呼ばれる方法で実施します。初めに胚は高濃度の凍結保護剤を含む培養液の中に移されます。この操作は胚の中に水分と凍結保護剤を交換するために行われます。その後、胚は液体窒素(-196℃)に投入され凍結が完了します。凍結された胚は次の治療に使用するまで液体窒素タンクで保管されます。
6)費用
価格表をご確認ください
7)胚の凍結保管について
保管期間について
- ①採卵をした月の翌年同月末までの1年間
- ②保管延長をご希望される場合は1年毎に保管延長の手続きが必要です
- ③最長保管期間は女性の生殖年齢(概ね50歳)を超えないまでです
※最長保管期間は日本産科婦人科学会の会告に基づきます
保管が終了となるケース
- ①保管期限の期日までに保管延長の意思表示がない、または手続きが完了していない場合
- ②離婚またはパートナー関係が終了となった場合
- ③ご夫婦の一方あるいは両方が死亡した場合
- ④一定期間(概ね1年)当院からの連絡が不能となった場合
- ⑤凍結胚を用いた治療にどちらか一方が同意しなかった場合
- ⑥災害(天災や火災等)により凍結胚が損傷を受けてしまった場合
- ⑦閉院または体外受精治療が中止となった場合
※他の医療施設へ移送する等善処させていただきます
胚融解
1)胚融解とは
凍結保存していた胚を融解し、その後の治療に利用することです。
2)胚融解の方法
凍結胚の融解は、液体窒素中から37℃に温めた培養液に胚を直接投入して行う超急速融解法によって行います。その後、培養液で洗浄し凍結保護剤を取り除きます。
超音波検査について
1)超音波検査とは
卵胞の発育状態、子宮内膜の状態、子宮筋腫の有無を調べる検査です
2)超音波検査の種類
- ①経腹超音波検査:お腹の上から超音波をあてて検査します
- ②経腟超音波検査:プローベという器具を膣に挿入して超音波をあてて検査します
減数分裂について
1)減数分裂とは
1つの細胞が2回の分裂を経て4つの細胞に分裂し、細胞にある染色体の本数は元の細胞の半分になる分裂のことで、配偶子である精子や卵子に特徴的な分裂様式となります。ヒトは染色体を46本有しているので、減数分裂後の配偶子(精子、卵子)は23本の染色体を有することになります。
2)減数分裂をする意味
父の遺伝子を持つ精子と母の遺伝子を持つ卵子は融合(受精)という過程を経て一つになり、次世代(子)が誕生します。もし配偶子である卵子と精子が親と同じ染色体の46本を有していると卵子と精子が融合してできた受精卵(子)は染色体の本数が96本になって異常となります。親と子の染色体を同じにするために配偶子である卵子と精子は染色体の本数を半分の23本にする必要があります。
3)卵子、精子ができるまでの流れ
精子機能評価検査
1)精子機能評価検査とは
精子の質を評価する検査で精子クロマチン構造検査と抗酸化力検査があります。これらの検査は世界保健機構(WHO)ラボマニュアル第6版において精液検査の項目として新たに追加された検査になります。
・精子クロマチン構造検査について
・抗酸化力検査について
2)精子機能評価検査の目的
一般的な精液検査で評価される精子濃度や精子運動性評価ではわからない精子そのものの質を評価し今後の治療方針の決定に利用します。また、必要に応じて男性に投薬治療等を行います。
3)精子機能評価検査の対象となる方
①精液所見が良好にも関わらず一般不妊治療で妊娠に至らない方
②精液所見が不良の方
③医師に検査が必要と判断された方
4)費用
費用はこちらを確認ください